猫が星見た

映画の感想

デカローグ ある運命に関する物語(Dekalog,Jeden)

モーゼの十戒をモチーフにした10つの連作。一話目は“あなたは私のほかのなにものも神としてはならない”
ここ7,8年の私のベストムービーのワン、ツーは鉄板で「欲望の翼」、「デカローグ」である。宗教色を含んだ映画が苦手な私が唯一理解し共感し驚嘆した作品。
この第一話は「人生では計算外のことも起こる」という単純な周知の事実を描いているだけなんだけど、科学と宗教は表裏一体、具体と抽象は表裏一体であることを実ににくーい表現で表していてなんともいえない素晴らしい繊細さを持っている。観るたびにその的確さに深い溜め息を吐いてしまう。私は学生時代理系だったが、劇中の数学学者の父親がなんでも物事は計算できると思うのとは反対に、ゼロという基準を人間が勝手に決めて、それで1とか2とか100とかに意味を持たせたんだから、全く数字を信じていない、というか人間の知ってることって人間が勝手に決めたことだけだから、世界の大半は人間の知らないことだらけ、何が起こっても不思議じゃない、と数学を勉強して逆にそう思った人間なので、叔母さんの気持ちが分かるし、子供の疑問も分かるし、もちろん数字だけで片付けようとする父親の気持ちも分かるし、あの展開も物語を進めるためのご都合主義だとは全く思わない。この作品は、私が今まで感じてきてうまく言葉に出来なかった人生における中途半端な事柄を、見事に語ってくれている。
父親は最後に教会へ辿りつくわけだけど、この作品が特に素晴らしいと思うのは、それでも彼は完全に神を信じたわけではない所だと思う。この作品10話に共通することだけど、登場人物は皆神様というものに懐疑的で、それがうす暗い現実を本当に生きている人間の真実だと私は思う。普段は存在を忘れているけど、何かあったときに神のせいにしたり、神のおかげだと思ったり、そういう愚かなものだよな。あと、父親が氷の厚さの計算を2回した上、実際に湖まで確かめに行った所もボディーブローのような演出でうまいなーと思った。数字を100%信じているわけでもないから、ラストの息苦しさがある。
これだけ素晴らしい作品だと言葉にできない感動があるので、感想がうまく書けない。とりあえず一話が50分強でこの内容は凄い。二時間観ても、は?何がいいたいの?という映画が大半であることを思うと、キェシロフスキは天才としか言いようがない。これこそ神がかっている。
(DVDで・2007年9月24日)

デカローグI [DVD]

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