猫が星見た

映画の感想

シークレット・サンシャイン(密陽)

シングルマザーのシネは、幼い息子ジュンと2人で、亡き夫の故郷・密陽(ミリャン)に引っ越し再出発を誓う。地元の小さな自動車修理工場の社長ジョンチャンは、そんなシネと出会い心惹かれる。何かと世話を焼いてはシネの気を惹こうとするジョンチャンだったが、今も夫を心から愛しているシネは、彼を俗物男と評して冷ややかな対応。そしてようやく新生活も落ち着きを見せ始めたとき、思いもよらぬ悲劇が彼女を襲う。息子のジュンが誘拐され、全財産を身代金として渡したものの、結局ジュンは遺体となって発見されたのだった。絶望の末に、薬局の女主人に勧められたキリスト教への入信を決断するシネだったが…。

韓国映画って結構な頻度で“人間はどんな辛いことがあっても簡単には気が狂ったりしないし、死んだりなんかできない。楽になんかなれないんだぞ、ずっとしんどいんだぞ”と言ってくる。容赦がない。素材・設定はすごくベタだが、人間の業みたいなものをびっくりするほど的確に表現している。邦画なんてそんなの絶対ない。日本の若手監督・脚本家はほんとーに楽天的というかバカ。人生考えさせる邦画なんてここ数年全然みてねえ。お金とかそういう問題ではなくて、明らかに作り手の質が負けている。
私は無神論者(というか神がいたとしてもそれほど絶対的じゃないくらいのポジション)だが、この映画を観て初めて、辛いことを乗り越えられない人が宗教に縋っても仕方がないと思えた。
しかし結局人を救うのは人であるとこの映画は言う。神はその媒体でしかない。
誰だって悪い奴を許せたりしないだろう。特に自分に危害を加えた人間を許せないだろう。それは動物として当然のことである。神が殺人犯をも許してそいつが穏やかに生きているのにはフィクションだとしても吐き気がする。許せなくて当然で、全てを許せる人間が異常である。人間なんてえげつないものなんだから。

人間がどうしようもない俗物で、だからこそ救いである、というのを体現しているのがソン・ガンホ。田舎のおっちゃんらしくダサイくて下ネタも好きで、下心で教会に通っちゃう。でもチョン・ドヨンを見捨てたりしない。献身的すぎるのがリアリティないような気もするけど、見捨てちゃったらもうこの映画誰も観たくない悲惨な話になっちゃうもんなあ……
それでもちろんものすごい演技のチョン・ドヨン。嗚咽が怖すぎ。生きてるのが怖くなってしまうくらい。
この人の演技のすごいところは、気が狂う、狂人の手前ぎりぎりで演技しているところだと思う。決して頭のおかしい人ではなく、ぎりぎりで苦しんでいるところを演じている。だからその苦しみはすごい痛い。


そんで私がボロボロ泣いたのは(いつものように的外れ)服屋のおばちゃんがチョン・ドヨンが髪の毛切っている途中で美容院を出てきた事に対して「気でもおかしくなったの!?」とぽろっというところ。これは笑い泣きした。

ラストはちょっとご都合主義かなと思ったので星5つにはしなかった。
「オアシス」の時にも思ったけど、この監督は基本的にハッピーエンドが好きなんだね。「オアシス」の時はうまくいってたけど、今回はちょっと終わりが軽すぎたかなと思う。
でも傑作。

(2009年6月)

シークレット・サンシャイン [DVD]

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