猫が星見た

映画の感想

マンハッタン殺人ミステリー(MANHATTAN MURDER MYSTERY)

どこから語り出せば適当か悩んでしまうほど色んな要素を持った、映画ファンには堪えられない、W・アレンの粋な快作である。ミア・ファーローとのパートナー・シップを解消して作られた第一弾の本作は、相手役にかつての名コンビのD・キートンを再び招き、老いたりとはいえ、昔のように駄洒落立板に水のアレンまで戻ってきた。前作「夫たち、妻たち」でもそうだった、手持ちのカメラのぶん回しが実に自由闊達、生き生きとした日常ドラマを織り上げ、そこへ題名にあるような夫婦探偵(ズバリ「影なき男」シリーズのウィリアム・パウエルマーナ・ロイそのもの)のハラハラドキドキの冒険が盛り込まれるのだ。彼らが追いかけるのは隣家の夫人の突然死。どうも旦那の素行が怪しいのでは、という奥方キャロルの当て推量に、最初は取り合わなかった夫のラリーも引きずられるように余計な首を突っ込んで……。一応ミステリーなので、後は多くを語るまい。にしても、ギリギリでスノッブを逃れているNYならではの遊びの楽しみ(ホッケーの試合、オペラ鑑賞、名画座でのワイルダーの「深夜の告白」、ウェルズの「上海から来た女」……本筋に大いに関わってくるので要注意。少しリッチな気分で、21クラブでの息子の誕生日祝い……etc)も満載され、ウキウキしてしまう。例の如く、音楽の趣味も最高で、こんなゴッタ煮の中にも夫婦のちょっとした危機をほんわかと描いて(実はそれが一番重要だったりする)、アレン氏、円熟の話芸を見せつけて、脱帽です。


ウディ・アレンが好きな人は好きな映画だろう。
そうじゃない人には興奮する映画でもなんでもない。私はアレン好きじゃないので星3つ。
(2009年7月)