猫が星見た

映画の感想

チョコレート(MONSTER'S BALL)

息子を失った男と、息子を失った女が出会い、生きていく話


星5つでもいいんだけど、なんとなく、なんとなく満点はやめておく。
寂しい寂しい話。
ハル・ベリーが黒人女性で初めて主演女優賞を獲ったことで有名な作品。流石に素晴らしい映画です。
彼女の演技ももちろんいいんだけど、私は逆にビリー・ボブ・ソーントンがすごいなあと思いました。
あの顔で人種差別主義者という役だと、一直線にマッドガイ、ザ・ガンコ親父になりそうなもんですが、ソーントンのそれは違う。
目が優しい。父親に言われて人種差別主義者に無理してなっている、のが最初からよく分かるんです。
強くあれ強くあれ!と言われ続け、そうでなければならないと抑制され続けている。でも本当は優しい、息子のソニーと同じ種類の人間なのを自分でも気付いている。でも父親の前ではそうであってはならないし、息子もそうであってはいけないと思い込むからいびつな人間になる。
息子が死んで急にあんなに優しくなるのはおかしいという疑問が全然わかなかったのは一重にソーントンの演技の巧さのせい。彼は本気では息子をろくでなしと思っていなかったのが分かる。罵倒していた最初でさえ、愛が見えたのです。そこんとこ、ソーントンはほんと巧い。
ストーリーは、至ってシンプル。哀しみの淵にいる2人の男女が寄り添いながら生きていく、ただそれだけ。使い古されたともいえる。
でもね〜、じーんとくるんですよ。ラストにソーントンが「俺たちうまくいくよ」と静かに言うところ、なんて美しいシーンなんでしょう。それでそのとき、ハル・ベリーに微かな笑みが浮かんで、あー彼女は今なに考えてるんだろうかな、全て受け入れたのかな、きっとそうなんだろうな、いや、そうでなくてもきっと一緒に生きていくんだろうな、という気持ちで全体にそこはかとなく伝わる寂しさと、幸せがゆっくり染み込んで来ました。心が完全には通わない美しさ、みたいなものを感じました。
この映画をすごい惨いものだと勝手に予想していたんですが、こんなにシンプルで、地味にいい話だとは思わず予想外に感動。いい映画でした。
(2009年12月17日)

チョコレート [DVD]

チョコレート [DVD]