猫が星見た

映画の感想

善き人のためのソナタ

旧東ドイツで反体制派への監視を大規模に行っていた秘密警察“シュタージ”。本作はこのシュタージ側の人間を主人公に、統一後も旧東ドイツ市民の心に深く影を落とす“監視国家”の実態を明らかにするとともに、芸術家の監視を命じられた主人公が図らずも監視対象の考え方や生き方に影響を受け、新たな人生に目覚めてしまう姿を静謐なタッチでリアルに描き出す感動のヒューマン・ドラマ。主演は自身も監視された過去を持つ東ドイツ出身のウルリッヒ・ミューエ。監督はこれが長編第1作目となる弱冠33歳の新鋭フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

秀作です。
見る人によっていろいろな感想を持つ映画だと思います。歴史ドラマとみる人もいるだろうし、人の良心を描いた人間ドラマとみる人もいるだろうし。
私はこの映画に、人間の孤独と、それでも心を失わなければ美しく生きられるという救いをみました。主役である秘密警察の尋問官の圧倒的な孤独、簡素で仕事以外なにもない人生、それでも自分を哀れむわけでもなく淡々と生きている姿に、寂しさというより感動を覚えました。
尋問官が監視対象の芸術家の生活をみてだんだんと人間らしくなっていったとみることもできますが、私は実は尋問官は元々芸術好きだったんじゃないかなと感じました。監視対象の劇作家の家から本を盗み出して読んだり、ピアノの音にうっとり耳をすましたり。劇作家が反体制的だと報告したら、彼の作品をもう観ることができないと思って報告をやめていますし。女優のクリスタに対しても、恋愛感情というよりは、純粋なファンであったように思いました。
だから、尋問官が劇作家と女優をかばったことは、映画的なご都合主義ではなくて、非常に自然なこととしてとらえられました。また、壁崩壊後もちらし入れという虚無な仕事を淡々とこなす主人公、全ての演出が大げさではなく、非常にリアルで、うーんこれは日々孤独を痛烈に感じている人に薦めたい、いい映画でした。