猫が星見た

映画の感想

グラン・トリノ(GRAN TORINO)

長年一筋で勤め上げたフォードの工場を引退し、妻にも先立たれた孤独な老人ウォルト・コワルスキー。いまや、彼の暮らす住宅街に昔馴染みは一人もおらず、朝鮮戦争帰還兵の彼が嫌ってやまないアジア人をはじめ外国人であふれる通りを目にしては苦虫をかみつぶし、亡き妻に頼まれたと、しつこく懺悔を勧めてくる若造神父にも悪態をついては追い返す日々。自宅をきれいに手入れしながら、愛犬デイジーと72年製フォード車グラン・トリノを心の友に、お迎えが来るのをただじっと待つ退屈な余生を送っていた。そんなある日、彼が大切にする自慢の庭で、隣に住むモン族の気弱な少年タオと不良少年グループがもみ合っているのを目撃したウォルト。彼らを追い払おうとライフルを手にするが、結果的にタオを助けることに。タオの母親と姉がこれに感謝し、以来何かとお節介を焼き始める。最初は迷惑がるものの、次第に父親のいないタオのことを気に掛けるようになるウォルトだったが…。

ちょっと甘く星5つなんだけども、(多分)イーストウッド最後の主演作として今年スクリーンで観ておいた方が幸せですよ、と言いたい。
以下、ネタバレあり。




私はケビン・コスナーは嫌いだがそれを差し置いても「パーフェクト・ワールド」が大好きなので、もちろんこの「グラン・トリノ」も大好き。フォード、アメリカのなんてーことない住宅街、ちょっと色あせた風景……(まー内容は全く違うけど)
イーストウッドが監督として常に素晴らしいのは、そこに現在のアメリカの味を入れ込んでいること。もはやそこは白人の世界ではなく、アジア人(しかもよくわからん民族)、外国人の方が主導権を握っている。
ストーリーは分かりやすいし、展開も観易い。時間も短い。
偏屈なウォルトも嫌な奴というよりはむしろかわいらしく演出されている。
ユーモアも効いていて思ったほど重厚じゃない。ほっと“ああいい映画だなあ”と思える。
やっぱねえ、説明ゼリフがなくて、他愛ないやりとりで作る映画って素晴らしいと再認識。
ウォルトの仕草とかね、タオの家のばあちゃんの迫力とかね、そういうディテイルが丁寧なので、私はアメリカで暮らしたことないけど、すごく環境が分かるしなんでか郷愁を感じる。
ラストに関しては、鉄板でウォルトが犠牲になるんだろうと思ってので、別に衝撃でもなんでもなかった。ただ、神父の葬式での言葉に鼻をすすった。
結局ウォルトの暗い過去はあれで浄化されたのか?というと個人的には疑問が残るし、そもそもウォルトの悔いがあいまいな表現だったのでその辺はもやもやしているのだが、なんというか私にとってはラストはそれほど重要には思えなかった。そこまでの過程が素晴らしく、海沿いの道を車が走る、エンドロールがとても心地よかったので、あまり深く考えずにイーストウッドに5つ星を献上したい。
(2009年5月)