猫が星見た

映画の感想

ブロークバック・マウンテン(BROKEBACK MOUNTAIN)

1963年、ワイオミング。ブロークバック・マウンテンの農牧場に季節労働者として雇われ、運命の出逢いを果たした2人の青年、イニスとジャック。彼らは山でキャンプをしながら羊の放牧の管理を任される。寡黙なイニスと天衣無縫なジャック。対照的な2人は大自然の中で一緒の時間を過ごすうちに深い友情を築いていく。そしていつしか2人の感情は、彼ら自身気づかぬうちに、友情を超えたものへと変わっていくのだったが…。


アン・リーは隠れゲイを描かせたら世界ベスト3に入る監督でしょう。
「ウェディング・バンケット」に続き、この作品も素晴らしい出来なので、てっきり本人もゲイなのではないかと思いましたが、奥さんもお子さんもいるようですね。……隠れゲイかもしれませんが。
そう疑うほど繊細な映画です。


正直、ゲイの部分はものめずらしさみたいなものがあって正確に評価できないんですが、封建的で陰気な田舎とか、親兄弟のしがらみとか、惰性的な生活とか、そういうものがヒシヒシと伝わってきて、流石にうまいなあと思いました。
特に目線の使い方がすごくうまい。アルマが夫のイニスを見る目、怯えたような、汚いものを見るような、蔑んでるような、なんともいえない不安を煽る目なのです。そんで、ジャックが男を誘う目も半端ありません。ねちっこすぎます。最初に見た瞬間にゲイだってわかる目です。そんでジャックの親がイニスを見る目も冷たいような、とてつもないよそよそしさを持っているもの胸がしめつけられました。セリフがなくても分かる。ジャックの親は自分の息子がゲイだと知っていて、目の前の男がその相手だってことも知っていてどうしていいのか分からない。受け入れられないし、でも突き放すことも出来ない。
この映画の素晴らしい所って、ゲイだと受け入れない人たちが薄情なわけじゃないっていう所じゃないでしょうか。そういう環境に育ってきてるからどうしても拒否感が先に立つ。排他的になる。もちろんゲイだということも悪いことでもなく、ただ積み重なった社会の歪みのせいでどうしようもない擦れ違いの人生がうまれてしまう。そして主人公たちにとっての理想郷がブロークバック・マウンテンだった。鑑者の私達の理想郷もどこかにあったはずで、今そこで暮らしてる人もいればそんなこと忘れてしまった人も、そこに行きたいと思っても現状に精一杯の人も。この作品はそういうものへの望郷の映画で、そういうテーマを描ききった所が素晴らしい。

ただ星を4つにしたのは、男女の恋愛だと感情に注目がいきますが、ゲイの恋愛だと何故か肉体に注目がいって、いやらしさが伴うので、どうも“真実の愛”という感じがしないのだなあ〜。正直、最初のイニスとジャックの始まりも、単なる欲求不満だったのではないかと思うのです。家庭で嫌なことがあると男とのSEXで鬱憤を晴らす、みたいなところはその後も多々ありました。だからラストのイニスのセリフはちょっと違和感がある。腐れ縁、というかあの時はよかったね、的な部分が多い映画だったので、ラブストーリーではないと思うのです。
(2008年6月13日・WOWOWで)