猫が星見た

映画の感想

過去のない男(Mies Vailla Menneisyytta)

同監督の「浮き雲」に展開が非常に似ている。カンヌで賞を獲っており、カウリスマキ作品の中で最もメジャーな作品であるが、いつもほど殺伐としていないので不幸→幸福のありがたみをあまり感じず、不思議なことに私にとってはカウリスマキ作品の中で最もインパクトのない作品となっている。毒のないというか世の中を乾いた感じで見てないカウリスマキ映画というのは正直物足りない。私のような斜に構えた人間は不幸で不幸で正視できないような人が一筋の幸福をみつけた時にようやくカタルシスを得るのである。この主人公はそれほど(今までの同監督作品中の不幸な奴らと比べて)不幸ではなかった。不幸も幸福も無感動に享受してきたこれまでの不幸人に比べてプラス思考な気がしたのだよね。カウリスマキ独特の味を感じたい人に最初のカウリスマキ作品を薦めるとしたらまあ「浮き雲」の方を薦めると思う。より地味なのでも平気な人には「真夜中の虹」を。棘があるから薔薇は美しい、じゃないけど、寒々しさがカウリスマキの棘で、この作品ではその棘がもう抜けちゃったのかなあという気がした。
(映画館で・2003年5月14日)